滞泊十選《3》〜河辺〜

 青梅駅の2つ隣、河辺(かべ)駅でも毎晩、中央線の電車が眠っている。河辺も青梅駅と同じ青梅市内で、夜に青梅行きとして下った電車が河辺に回送され、朝は逆に河辺で寝ていた電車は青梅に回送されてから営業運転を始める。
 河辺の留置線に寝ている間はホームからじっくり観察できるので、201系が滞泊する際には一部のファンから「河辺駅展示会」とか「カヘ展」(カヘは河辺の電略)などと呼ばれて珍重されていた。

 寝ている電車が目を覚まして支度をするのは朝7時前後なので(休日は平日よりいくぶん早い)、夏場は夜が明けてしまっているのだが、この写真は去年の冬至のころ。暗闇の中でライトを輝かせている姿も凛々しいけれど、寒空の下で凍えながら見ていて何よりも感動するのは時折聞こえる「シューッ、シューッ」という201系の息づかいだ。ああ、きょうも201系が生きている。きょうも201系が走ってくれる――という感動が、眠気と寒さを吹き飛ばす。
 馬鹿げた感傷だと一笑に付す人がいるのは承知しているが、私にとって電車は生きものだ。201系は特にそう。暗闇の中で目を覚ました201系の姿を見ているといつも、その生命の鼓動をはっきりと感じるのだ。