滞泊十選《5》〜東京〜

 中央線快速電車の車両が必ず夜を明かす場所として、忘れてはならないのが東京駅だ。上りの東京行き終電と、その一本前の電車が東京駅に滞泊する。東京駅に着くと「この電車は回送電車となり、車庫に入ります」とアナウンスしていることが多く、車外の行先表示もたいてい「回送」となっているのだが、その「車庫」は実際のところ東京駅のホームである(ただし、まれに線路保守などの関係で中野に回送することがあるようだ)。

 この2本の電車はもちろん東京駅からの初電と、その次の電車になる。4時を過ぎて改札口を入ると、エスカレーターの上の高架ホームで、朝の仕事を前に準備する電車の姿を見ることができる。東京駅の中央線ホームは長野新幹線の開業に備えて東北・上越新幹線ホームを増強するのに伴って高架化されたとのことで、冬場は風が強い。しかし、地上時代を知る201系の姿がそこにあれば、寒風に吹かれ、冷たい雨に打たれながら電車を撮り続けることも苦ではない。
 普段、ここに寝ている電車は「各駅停車高尾行き」として出発していく。しかし、イレギュラーな行先を一度だけ撮ったことがある。2009年1月、西国分寺〜立川間の高架化工事に伴って国分寺での折り返し運転が行われたとき、201系H4編成がここに寝ていた。

 夜が明けるか明けないかの、なんとも微妙な時間帯。世の多くの人々は、まだ夢の中だ。ひっそりと静まり返った都会の真ん中で支度をするオレンジ色の電車の姿を、もう一度見ることはできるのだろうか。